東京地方裁判所 昭和38年(ワ)6786号 判決 1963年12月26日
原告 柏熊恒
右訴訟代理人弁護士 岡部勇二
被告 国
右代表者法務大臣 賀屋興宣
右指定代理人、法務省訟務局局付検事 横地恒夫
ほか一名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
一、原告が、東京高等裁判所昭和三七年(ネ)第二、三五五号司法行政処分の取消等請求控訴事件について、控訴を提起し、控訴状に一〇円を貼用してこれを同裁判所に提出したところ、原告主張の日に同裁判所第三民事部裁判長判事板垣市太郎が、右控訴状に訴訟用印紙不足分として七四〇円を貼用すべきことを命ずる旨の補正命令を発したので、原告はこれに従い、控訴状に七四〇円の印紙を追貼したこと、本件控訴の対象となつた第一審の判決は、訴却下の訴訟判決であることは、いずれも当事者間に争いがない。
二、そこで、まず右補正命令に原告主張のような違法があるかどうかについて判断するに、民事訴訟用の印紙は、民事訴訟につき、裁判所に対し判決その他の行為をなすべきことを要求する者が納付すべき手数料であつて、一種の受益者負担の性質を有し、その貼用印紙額は、訴えその他の申立てによつて受ける当事者の利益を基礎として計算されるものであるが上訴状に貼用すべき印紙は必ずしも国民の判決請求権に応ずる裁判所の実体判断に対する対価を意味するものではない。
民事訴訟用印紙法は、第二条において、第一審の訴状に貼用すべき印紙の額を訴訟物の価額に応じて区別し、第五条において、第二条の基準に従い、控訴状には、第一審の訴状に貼用すべき印紙額の一倍半の額の印紙を貼用すべきことを定めており、訴訟判決に対する控訴と、実体判決に対する控訴とを区別せず、前者につき貼用すべき印紙額を特別に定めてはいない。したがつて、同法第五条は、本件のように、第一審の訴訟判決に対し控訴した場合においても、それが控訴である以上、控訴状には、訴状に貼用すべき印紙額の一倍半の印紙を貼用すべきことを規定したものと解するのが相当である。そして当事者としては、訴訟判決に対する上訴によつても終局的には実体判決を求めているものにほかならない受ける利益は実体対する上訴の場合もそのから、訴訟判決に判決に対する上訴の場合と同じであるとみることができ、したがつて、同様に訴訟物の価額を基準として印紙を貼用すべきものとしても合理性を欠くものということはできない。
してみると、本件補正命令には、原告主張のような違法はないから、原告の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく失当である。
三、よつて、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 位野木益雄 裁判官 桜林三郎 小笠原昭夫)